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福岡高等裁判所 平成2年(行コ)1号 判決 1991年2月28日

控訴人

佐伯進

右訴訟代理人弁護士

山田敦生

被控訴人

唐津労働基準監督署長右近守

右指定代理人

呉屋栄夫

藏本秀盛

神田良昭

田中陽二

菖蒲正己

見浦和弘

浦川稔恵

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決主文一項を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対し昭和五九年四月一一日付けでした労働者災害補償保険法による障害補償給付支給に関する処分を取り消す。

(三)  控訴費用は第一、二審ともに被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二  当事者の主張

次のとおり付加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決事実摘示部分の付加訂正)

1  原判決二枚目裏一ないし二行目に「腰椎三、四の椎間板症、右全半身の知覚麻痺」(本誌本号<以下同じ>99頁3段22~24行目)とあるのを「腰椎(L3/4)の腰椎椎間板障害」と訂正する。

2  原判決二枚目裏一〇行目と同一一行目(99頁4段10行目)の間に改行のうえ次のとおり付加挿入する。

「控訴人は、本件処分の通知を昭和五九年四月二三日に受けたので、労働保険審査請求を同年五月三日に行い、昭和六一年七月八日に右審査請求を棄却する旨の同年六月二三日付け決定を受け、同年七月二一日に再審査請求を行ったが、昭和六三年九月一六日に右再審査請求を棄却する旨の同月一二日付け裁決を受けた。」

3  原判決三枚目表初行の「とともに」(99頁4段16行目)から同末行(100頁1段4行目)の「必要性はない」までを削除する。

4  原判決三枚目裏初行の「三 請求原因に対する認否及び主張」(100頁1段5行目)を「二 請求原因に対する認否及び主張」と訂正し、同二行目の「請求原因1、2及び5記載」(100頁1段6行目)を「請求原因1、2及び4記載」と訂正する。

5  原判決三枚目裏三行目冒頭(100頁1段8行目)から同八行目末尾(100頁1段17行目)までを「請求原因3記載の事実のうち、控訴人が昭和五六年八月五日から同年九月一六日まで唐津赤十字病院で『第五腰椎分離症』の傷病名で治療を受けたこと及び昭和五八年六月総合せき損センターで『腰椎(L34)の腰椎椎間板障害』の診断を受けたことは認めるが、その余は知らない。」と訂正する。

(当審における補足主張)

1  控訴人

(一) 控訴人は、昭和五一年一〇月ころ、変形性腰椎症にかかったことがあるが、右は本件事故の前に完治していたのであり、昭和五五年一二月ころから感じるようになった腰部の痛みは右の腰椎症とは全く関係がない。

(二) 本件事故による負傷部位は右膝部分だけであるが、膝関節は大きな関節である割には軟部組織で浅く支えられていて、負傷の程度が大したことがなくても長期の加療を要したり、内側半月板損傷に至ることがあるのである。控訴人が本件事故後二、三日休養しただけで働きに出たのは、疼痛を我慢していたのである。

(三) 膝部と腰部とは密接に相関連しており、膝関節内側半月板損傷による半月板切除手術を受けても、なお痛みがとれずに障害が残る場合には、神経がつながっているため、その痛みが腰部(腰椎)に上がってくることが往々にしてあるとされており、両者間には因果関係がある。

2  控訴人の主張は争う。

膝部の痛みが腰部に上がってくるとの医学的所見はなく、控訴人の右膝半月板損傷と腰痛との間には医学的にも因果関係が認められない。むしろ、控訴人の腰部痛は本件事故前からの既往症である変形性腰椎症が原因であると考えられる。すなわち、控訴人は、昭和五一年二月に麦の積出し作業中、自らの手かぎで右膝上部の傷害を負い、約一〇日間欠勤したほか、同年九月ころに唐津市魚市場において鮮魚を貨車に積み込む作業中に腰部捻挫の傷害を負い、同年一〇月一二日に宮崎外科病院で変形性腰椎症と診断されていた。そして、控訴人は、本件事故前である昭和五四年一月初めころから、右膝が痛くなりだし、副島整形外科病院で右膝内障の疑いがあるとされていた。このように、控訴人は、通常人に比べて膝や腰が弱かったのであり、昭和五八年七月七日総合せき損センター整形外科における腰椎椎間板変性の診断結果をも考慮すると、控訴人の前記変形性腰椎症は本件事故当時も完治していなかったと考えるべきである。

三  証拠

原審及び当審における訴訟記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求を棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決四枚目表五枚目(100頁1段31行目)から同五枚目表九行目(100頁3段23行目)までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表八行目の「診断」(100頁2段7行目)の前に「腰椎(L3/4)の腰椎椎間板障害の」を、同八ないし九行目の「そして、」(100頁2段8行目)の次に「右争いのない事実のほか」を各付加する。

2  原判決四枚目裏七行目の「成立に争いのない乙第五号証」(100頁2段28行目の(証拠略))」から同八行目の「並びに原告本人尋問の結果」(100頁2段29行目)までを「成立に争いのない乙第三号証、第五、第六号証、第七号証の二、第八号証の一、二、第九、第一〇号証、第一一号証の三、第一二号証、第一三号証の二、当審証人山野耕一郎の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果(一部)」と訂正する。

3  原判決五枚目表初行の「通院加療を受けていること」(100頁3段7行目)の次に「並びに控訴人は昭和五八年七月七日の総合せき損センター整形外科における腰椎椎間板造影検査によっても第三、第四及び第四、第五腰椎間の椎間板にそれぞれ変性が認められ、控訴人の腰部痛は第三、第四腰椎間の椎間板の変性に伴う不安定性に起因しているとみられること、なお、控訴人の右膝関節には強屈時の疼痛と障害等級には該当しない程度の軽度の屈曲制限が残っていること」を付加する。

4  原判決五枚目表二行目の「前記各診断の事実のみをもって原告の腰椎等に生じた前記障害が」(100頁3段8~10行目)を「控訴人の右膝関節部に生じた頑固な神経症状と軽度の屈曲制限以外の諸症状が」と訂正し、同五行目の「請求原因3記載の諸症状」(100頁3段14行目)の次に「のうち前記右膝関節部の頑固な神経症状と軽度の屈曲制限以外の諸症状」を付加する。

5  控訴人は、控訴人の腰部痛等は膝部と腰部とが神経でつながっているため、膝部の痛みが腰部(腰椎)に上がってきたためであり、右膝部の障害と腰部痛等とは因果関係がある旨主張するところ、前掲乙第一二号証、第一三号証の二及び当審証人山野耕一郎の証言によれば、膝部の痛みが腰部(腰椎)に上がってくるということは医学的に考えられないことが認められ、本件全証拠によるも、控訴人主張の事実は認められない。

二  そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし(なお、原判決主文二項は訴えの取下げにより失効した。)、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 友納治夫 裁判官 渕上勤 裁判官 横山秀憲)

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